【81】細胞周期とDNA合成
細胞周期(G1期・S期・G2期・M期)の中でも、M期(分裂期)の細胞だけは、染色体が凝集していることから、顕微鏡観察で見分けることができる。
細胞周期の長さ(細胞数が2倍に増える時間)が分かっていれば、顕微鏡観察した細胞数の比率から、M期(分裂期)の長さを計算できる。
一方、G1期(DNA合成準備期)、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)の長さを調べるために、放射性のチミジン(DNAの材料)を細胞に取込ませる方法がある。
放射性のチミジンを、ごく短い時間だけ細胞が取込むと、その時にちょうどS期(DNA合成期)にいた細胞だけが放射性標識される。(放射線を出すようになる。)
そのまま細胞を培養を続け、”S期(DNA合成期)の終わり間近で標識された細胞”がM期(分裂期)に到達するまでの時間(M期の細胞に”放射性標識された細胞”が現われるまでの時間)から、G2期(分裂準備期)の長さが分かる。
さらに培養を続け、”S期(DNA合成期)の終わり間近で標識された細胞”がM期(分裂期)を出るまでの時間(M期の細胞のうち”放射性標識された細胞”が一定数で変化しなくなるまでの時間)がG2期とM期の合計時間になることから、M期(分裂期)の長さが分かる。
やがて、”S期(DNA合成期)に入った直後に標識された細胞”がM期(分裂期)に到達するまでの時間(M期の細胞のうち”放射性標識された細胞”が減り始める時間)がS期とG2期の合計時間になることから、S期(DNA合成期)の長さが分かる。
細胞周期(細胞数が2倍に増える時間)の長さが分かって入れば、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)、M期(分裂期)を除くことで、G1期(DNA合成準備期)の長さも分かる。
では、放射性チミジンを長時間取り込み続けると・・・。
やがて全ての細胞が放射性標識される。
【補足】
- チミジン(DNAを構成するチミン塩基を含む化合物。)
- 放射性チミジン(分子内の水素を、放射性の三重水素に置換したチミジン。放射線を発する。)
- 三重水素(トリチウム。水素の放射性同位体。陽子1個と中性子2個からなる原子核をもつ。半減期12.32年でヘリウム3にベータ崩壊する。)
- オートラジオグラフ(分子を構成する元素の一部を放射性同位体に置換して標識し、分子の所在を追跡する手法。)
- G1期(DNA合成準備期。細胞分裂の後、DNA合成が始まるまでの期間。)
- S期(DNA合成期。染色体が複製され、DNA量が倍増する時期。)
- G2期(分裂準備期。DNA合成の後、細胞分裂が始まるまでの期間。)
- M期(分裂期。染色体の配置などから、さらに前期、中期、後期、終期に分けられる。)
- G0期(分裂休止期。細胞分裂の後、特定の形状・機能をもった細胞に分化する期間。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂