【54】EPSP&IPSP
中枢神経の興奮性シナプスでは、①"グルタミン酸(興奮性の神経伝達物質)"などの神経伝達物質がシナプス後細胞のリガンド依存性ナトリウムチャネルに結合し、②リガンド依存性ナトリウムイオンチャネルが開いて、④シナプス後細胞にナトリウムイオン(陽イオン)が流入すると膜電位がやや脱分極し、⑤シナプス後細胞に“興奮性シナプス後電位(EPSP)が生じる。
ただし、EPSPは小さな膜電位の変化で、単独では軸索に活動電位を発生させるほどの刺激にはならない。複数のEPSPが重なって膜電位が閾値を越えて変化すると、軸索に活動電位が発生する。
一方、中枢神経の抑制性シナプスでは、①GABA(抑制性の神経伝達物質)などの神経伝達物質がシナプス後細胞のリガンド依存性塩素チャネルに結合し、②リガンド依存性塩素イオンチャネルが開いて、④シナプス後細胞に塩素イオン(陰イオン)が流入すると膜電位がやや過分極し、⑤シナプス後細胞に“抑制性シナプス後電位(IPSP)が生じる。
EPSP(興奮性シナプス後電位)とIPSP(抑制性シナプス後電位)が同時に発生すると、互いの膜電位の変化は相殺されてしまう。
中枢神経で働くグルタミン酸やGABA(γ-アミノ酪酸)以外にも、様々な神経伝達物質が存在する。
それぞれの神経伝達物質が、EPSP(興奮性シナプス後電位)とIPSP(抑制性シナプス後電位)のどちらを引き起こすかは、神経伝達物質と結合するリガンド依存性チャネルなどの受容体の種類によって決まる。
【補足】
- EPSP(興奮性シナプス後電位。シナプス後細胞の細胞体の膜電位が、やや脱分極した状態。)
- IPSP(抑制性シナプス後電位。シナプス後細胞の細胞体の膜電位が、やや過分極した状態。)
- 空間的加重(複数の神経終末から同時に刺激を受けると、EPSPが加算されて膜電位がより大きく変化する。)
- 時間的加重(一つの神経終末から短時間に連続して刺激を受けると、EPSPが加算されて膜電位がより大きく変化する。)
- シナプス前細胞(シナプスにおいて、興奮を発信する側のニューロン。)
- シナプス後細胞(シナプスにおいて、興奮を受信する側のニューロン。)
- 神経伝達物質(シナプス前細胞の神経終末から、シナプス間隙に分泌される。シナプス後細胞のリガンド依存性チャネルなどの受容体と結合し、シナプス後細胞の膜電位が変化するきっかけとなる。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂
- 池谷祐二(2007).『進化しすぎた脳』.講談社