【46】ショウジョウバエの発生
ショウジョウバエなど昆虫の卵は、中心部に卵黄が蓄積する「心黄卵」で、「表割」と呼ばれる卵割を行う。
表割では、受精直後に核分裂を繰り返して多核細胞(多核性胞胚)となった後、胚の表面で細胞質分裂が進んで胞胚(細胞性胞胚)となる。
ショウジョウバエでは、卵原細胞が4回分裂してできる16個の細胞のうち、1つが卵細胞となり、残り15個は保育細胞になる。
保育細胞で転写された母性効果遺伝子(mRNA)が、卵細胞に移動して濃度勾配をつくることで、胚の前後軸が決まる。
受精すると、卵細胞内の母性効果遺伝子(mRNA)が翻訳され、ビコイドタンパク質やナノスタンパク質の濃度勾配ができる。
ビコイドタンパク質とナノスタンパク質の濃度勾配に従って、様々なギャップ遺伝子(ハンチバック、クリュッペル、ジャイアント…)が胚の前後軸に沿って帯状に発現する。
ギャップ遺伝子の濃度勾配に従って、ペアルール遺伝子(イーブンスキップド、フシタラズ…)、さらにセグメントポラリティー遺伝子(エングレイルド…)が帯状に発現し、胚が体節に分かれていく。
各体節では、8種類のホメオティック遺伝子(lab,pd,Dfd,Scr,Antp,Ubx,abd-A,abd-B)が様々な組み合わせで発現する。
ホメオティック遺伝子は、それぞれの体節に特徴的な複数の遺伝子の発現を調節(促進または抑制)する調節遺伝子で、各体節が分化する方向を決めている。
“ホメオティック遺伝子”に変異が起こると、触覚が脚に置換した“アンテナぺデア”や、平均桿のある後胸が翅のある中胸に置換した“バイソラックス”など、体節ごと入れ替わる“ホメオティック突然変異”が起こる。
【補足】
- 調節遺伝子(調節遺伝子から作られる“調節タンパク質”は、他の遺伝子の発現を調節(促進または抑制)する。)
- ホメオティック突然変異(ショウジョウバエの触覚が脚に置換した“アンテナぺデア”や、平均桿のある後胸が翅のある中胸に置換した“バイソラックス”など。体節単位で置き換わる突然変異。)
- ホメオティック遺伝子(ショウジョウバエのホメオティック突然変異の原因となる遺伝子。体節を特徴付ける様々な遺伝子の“調査遺伝子”として働く。ショウジョウバエの第3染色体に、まとまって存在する。)
- ホメオボックス(ホメオティック遺伝子に共通する約180塩基対の塩基配列。)
- ホメオドメイン(ホメオボックスに対応するアミノ酸配列。ホメオティック遺伝子から作られる調節タンパク質の、転写調節領域に結合する部分。)
- ホックス遺伝子(HOX遺伝子。様々な動物に存在する「ホメオボックスを持つ遺伝子」の総称。ショウジョウバエのホメオティック遺伝子も含まれる。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂
- ワルター•J•ゲーリング(2002).『ホメオボックスストーリー』.東京大学出版会