【73】生物濃縮
生物の体内で分解されにくく、体外へも排出されにくい物質は、生物の体内に蓄積しやすい。
そのような物質が、食物連鎖を経て、高次の消費者になるほど体内に高濃度で蓄積する現象を“生物濃縮”という。
例えば、フグ毒の“テトロドトキシン”は、もともと海水中の細菌によって合成されたもので、巻貝やヒトデなどを経て、これらを捕食するフグの体内に蓄積する。
塗料や絶縁体として利用されたPCB(ポリ塩化ビフェニル)、殺虫剤・農薬として利用されたDDT(dichlorodiphenylr trichloroethane)や有機水銀(メチル水銀他)なども、生物濃縮を経て人体に蓄積し、深刻な中毒症(カネミ油症、水俣病など)を引き起こしてきた。
【補足】
- テトロドトキシン(フグ毒。神経細胞のNaイオンチャネルに、細胞の外側から結合して蓋をすることで、興奮の伝達を阻害する。テトロドトキシンは、熱や紫外線、酸でも分解されにくく、分解酵素も知られていない。フグの他、アカハライモリなどの両生類、スベスベマンジュウガ二などの甲殻類、キンシバイ、ボウシュウボラ、ヒョウモンダコなどの軟体動物と、さまざまな水棲生物が体内に蓄積している。)
- クサフグ(フグ科トラフグ属Takifugu alboplumbeus。肝臓、卵巣、腸、皮などにテトロドトキシンを含むため、食用に向かない。本州沿岸から南西諸島まで広く分布する。釣糸を噛み切ったり、餌だけ奪ったりもするため釣り人には嫌われる。)
- キンシバイ(ムシロガイ科。殻高3〜4cmほどの巻貝。フグ毒テトロドトキシンをもつ。)
- ビブリオ菌(海水中に多く生息する好塩性の細菌類。テトロドトキシンを合成するVibrio alginolyticusや、腸炎ビブリオの原因となるVibrio parahaemolyticusなどを含む。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂
- レイチェル・カーソン(著)/青樹梁一(訳)(1974).『沈黙の春』.新潮文庫