【32】真核生物の転写調節
真核生物の遺伝子発現は、“大変に複雑”な方法で制御されている。遺伝子発現の第一段階“転写”は、RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)がDNAの“プロモーター”領域に結合することではじまる。けれども、RNAポリメラーゼが“プロモーター”領域に結合したり、結合した後にDNAの二重らせんを解きながらDNA上を移動したりするには、様々な“基本転写因子”の協力が欠かせない。
すべての“基本転写因子”がそろい、RNAポリメラーゼが“プロモーター”領域に結合して準備万端整っても、『転写開始』の最終決定権は”調節タンパク質“が握っている。
転写を促進する調節タンパク質”アクチベーター“が結合すれば『転写開始!』、転写を抑制する調節タンパク質”リプレッサー“が結合すれば『転写中止!』となってしまう。
さらに、 真核生物の長大なDNA(ヒトのDNAは細胞1個あたり約2m!?)は、ヒストン(タンパク質)に巻き取られた状態で核の中に収納されている。基本転写因子や調節タンパク質がDNAに結合するには、邪魔なヒストンやメチル基が取り除かれていなければならない。
【補足】
- 遺伝子の発現(遺伝情報が、DNAからmRNAに転写され、さらにポリペプチド鎖に翻訳され、フォールディングを経て、特定の立体構造を持ったタンパク質が。)
- RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素。DNAの塩基配列に対し、相補的なRNAのヌクレオチド鎖を合成する。DNAポリメラーゼと同じく、RNAのヌクレオチド鎖の3’末端に、新たにヌクレオチドを付加する。プライマーは必要ない。)
- プロモーター(RNAポリメラーゼが結合するDNAの領域。遺伝子の上流側にある。)
- 調節タンパク質(転写を促進するものを“アクチベーター”、転写を抑制するものを“リプレッサー”と呼ぶ。)
- 転写調節領域(調査タンパク質が結合するDNAの領域。アクチベーターが結合する“エンハンサー”領域と、リプレッサーが結合する“サイレンサー”領域がある。)
- 基本転写因子(真核生物において、RNAポリメラーゼ以外に、転写に“絶対必要”な諸々のタンパク質。RNAポリメラーゼとプロモーターの結合を助ける因子や、RNAポリメラーゼと調節タンパク質の結合を助ける因子、DNAの二重らせんを解く因子などがある。)
- メチル化(DNAの塩基にメチル基が付加されると、“転写”が抑制される。DNAのメチル化により、転写に必要なタンパク質のDNAとの結合が阻害されたり、ヒストンとDNAとの結合が促進されたりする。)
- ヒストン(真核生物において、DNAを巻き取るタンパク質。)
- ヌクレオソーム(1つのヒストンに、DNAが2周巻きついた状態。直径10nm程。)
- クロマチン構造(多数のヌクレオソームが規則的に折り畳まれた状態。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂