【22】原核生物のDNA複製
真核生物の直鎖状DNAが複製されるときには、“末端”があるために困った“問題”がおこる。
DNAポリメラーゼは、“すでにある”ヌクレオチド鎖(プライマー)の3‘末端にしか、新たなヌクレオチドを付加できない。そのため、ラギング鎖の5’末端ではプライマー(RNA)と入れ替わるヌクレオチド鎖(DNA)を合成できない。すると、真核生物の直鎖状DNAは、複製のたび(細胞分裂のたび)、プライマー1つ分ずつ短くなっていくことになる。DNAが徐々に短くなり、やがて重要な遺伝子の塩基配列まで失われてしまうと…。
一方、原核生物の環状DNAには“末端”が無い。真核生物のように“テロメア”を付け加えたり、相同染色体を対でもつ必要も無い? ほとんどの原核生物は、ゲノムを1セットしか持たない。
原核生物では、いつも決まった1ヵ所の複製起点からDNA複製が始まる。原核生物のDNAは、真核生物のように“ヒストン”に巻き取られていないこともあり、真核生物(毎秒80塩基対ほど)の10倍ほど速くDNA複製が進む。
さらに、原核生物のゲノムサイズは小さいため、複数の複製開始点をもつ真核生物よりも、DNA複製の期間も短い。ヒト(真核生物)のS期(DNA合成期)は約8時間もかかるのに、大腸菌(原核生物)のS期は40分ほどしかかからない。
【補足】
- テロメア(真核生物の直鎖状DNAには、末端部に特徴的な繰り返し配列がある。DNA複製のたびにテロメアは短くなっていく。)
- 環状DNA(原核生物のDNAには“末端”がない。)
- プラスミド(染色体DNAとは別に、細胞内に存在する短い環状DNA。原核生物や、酵母菌などがもつ。)
- 複製開始点(DNAの塩基配列の中で、複製が開始される部分。)
- DNAヘリカーゼ(DNAの二重螺旋を“ほどく”酵素。)
- DNAポリメラーゼ(ヌクレオチド鎖の“3‘末端”に、新たなヌクレオチドを付加する“DNA合成酵素”。プライマーを“5‘末端”側から分解する“ RNA分解酵素”でもある。)
- DNAリガーゼ(DNAのヌクレオチド鎖の3’末端と5‘末端を連結する酵素。)
- プライマー(DNAポリメラーゼは、“すでにある”ヌクレオチド鎖しか伸長できない。先に短い RNAが鋳型ヌクレオチドに結合し、DNAポリメラーゼが結合するためのプライマー“釣針”となる。)
- デオキシリボヌクレオチド3リン酸(ヌクレオチド鎖の材料となる。A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)をそれぞれ構成要素とするdATP、dTTP、dGTP、dCTPの四種類がある。いずれも2個のリン酸が外れてヌクレオチド鎖の3’末端に結合する。)
- 複製フォーク(DNA複製の際、二重螺旋がほどけて“二又のフォーク”の様な姿となる。)
- リーディング鎖(DNA複製の際、“複製フォーク”の根元に“3‘末端”を向けて伸長していく“新たなヌクレオチド鎖”。)
- ラギング鎖(DNA複製の際、“複製フォーク”の先端に“3‘末端”を向けて伸長していく“新たなヌクレオチド鎖”。)
- 岡崎フラグメント(ラグング鎖が伸長する際に、断続的に作られる短いヌクレオチド鎖。DNAリガーゼによって連結され、長いヌクレオチド鎖になる。)
【参考資料】
- 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
- 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
- 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
- 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
- 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂